◆Opening02◆新宿の探偵
シーンプレイヤー:日置鉄也
シーンタロット:ミストレス
新宿の繁華街から、少し外れたところ。
雑居ビルが一軒建っている。一階は、シャッターが半開きのガレージになっており、その中からは、油と鉄の臭いが漂ってくる。
ユウカは、スマートフォンのMAPで位置情報を出し、ここで正しいのか確認してみた。
間違いない、“日置探偵事務所”と示される。
よくよく見れば、その看板もかかっている。
意を決して、中を覗き込む。
すると、ライダースーツの男が、無骨なバイクを整備していた。
探偵というのは、あの人だろうか?
RL:タロットをめくって、新たなシーンを開始します。シーンタロットはミストレス。シーンプレイヤーはテツヤとなります。
テツヤ:おお、俺か。
RL:このシーンは、テツヤのハンドアウトにも書いてある土岐野ユウカが事務所に依頼にやってくるシーンです。演出の希望はありますか?
テツヤ:俺は、半開きのシャッターの中で、工具片手にバイクをいじっている。
RL:バイク整備で換気は重要ですしね。
テツヤ:コンクリート打ちっ放しのガレージの中に、テーブルと椅子が置いてある。その横に、バイクや整備機器が置いてあるんだ。寝起きするスペースは二階にある。
RL:では、テツヤがバイクいじりをしていると、スマートフォン片手に、制服姿の女の子が半開きのシャッターから中を覗き込んでいます。
テツヤ:来客か。足音に気づいた俺は、「悪いな。今、バイクの整備中なんだ」と言う。
RL:「あの、ここに探偵事務所があるとうかがって来たのですが……」
テツヤ:ここがそうさ。
エリカ:誰が見ても事務所じゃなくて、ただのガレージよね。
テツヤ:(バイクを叩き)こいつのガレージと探偵事務所の兼用でね。中に入って、座っていてくれ。
RL:その娘は「は、はい」と返事をします。制服を着た清楚な感じの少女で、鞄を抱えるようにして入ってきます。
テツヤ:暑苦しいところですまないな。ただ、商売道具の手入れを怠るわけにはいかないんでね。
RL:こういう場所へ来るのに慣れていないようで、少女は所在なさげに座っています。
テツヤ:点検を終えてから、声をかけよう。「……待たせて悪かった。それにしても、ずいぶんとかわいらしいお客さんだ。コーヒーしかないが、それでもよければ飲むかい?」
RL:「は、はい……」と言って口をつけます。
テツヤ:深煎りを濃い目に淹れているが、お口に合うかな?
エリカ:もしかして、その上でブラック?
テツヤ:ああ、もちろん。
RL:それ絶対苦いですね。その娘も「うっ……」と顔をしかめてしまいます。
テツヤ:おっと、なら砂糖とミルクを持っていってあげよう。それくらいは置いてある。遠慮はいらない、たっぷり使ってくれ。
RL:「ありがとうございます」とさっそく砂糖とミルクを入れるんですが、やっぱり苦いようです。
エリカ:でしょうねー。
RL:彼女は、マグカップを置くと「わたし、土岐野ユウカといいます」と名乗ります。
テツヤ:見たところ、高校生のようだが?
RL:「……探偵さんだという話を聞いて、ここへ来たのですが」
テツヤ:ああ。一応探偵を名乗っちゃいるが、何でも屋に近いな。猫探しからボディガード、果ては、やむにやまれぬ事情があるやつを逃がすことまでしている。この街でトラブルに巻き込まれたら、俺を頼ってくるやつは多い。
RL:「頼れる人だって、うかがっています」
テツヤ:そう言われると、少し照れるな。
RL:「あなたにお願いがあります。どうか、私の父を捜し出してください!」
テツヤ:……人捜しか。
RL:「はい。父は、私が小学生の頃に、突然いなくなったんです。もう七年も前のことです」
テツヤ:ずいぶん年月が流れているようだが……。
エリカ:確か、行方不明になった人って何年か経つと死亡扱いになるわよね?
RL:最後に連絡を取ってから七年経過すると、法律上で死亡扱いにできます。
エリカ:じゃあ、ちょうどその時期なんだ。
RL:そろそろその次期ですが、彼女が依頼に来たのはそれが理由ではありません。
テツヤ:まず、彼女の話を聞いてみよう。
RL:「父がいなくなってから、母は心労で他界してしまいました」
テツヤ:それは、気の毒に……。
RL:「父の名前は、土岐野貞秀。もし生きているなら、四二歳になっているはずです」
テツヤ:お父さんは何をしていた人なんだい?
RL:「会社員だったと聞いています」
テツヤ:会社員か。勤め先くらいは調べられそうだ。
RL:「周りからは、残念だがもう諦めたほうがいいって言われています。ですが、この前気になることがあったから……」
テツヤ:ほう? 話してくれ。
RL:「街で、父らしき人を見かけたんです。だから、戻ってきたんじゃないかと思って……」
テツヤ:失踪した父親らしき人影を見た、と。
RL:ちなみに、ルーラーシーンに登場した女子高生が、このユウカです。
唐巣:あの増田先生の演説に現われた男を見て思わず声を上げたのは、失踪した父親らしき人物を目撃したからだったのですね。
エリカ:じゃ、あのトレンチコートの男が、ユウカちゃんの父親かも知れないんだ。
RL:「これが、父の写真です」
テツヤ:受け取ろう。
RL:「それと、これも大事なことですから、お伝えしておこうと思うんです」
テツヤ:何だ?
RL:「父とそっくりな人が、指名手配されているんです」
テツヤ:……失踪した父親に似た指名手配犯、か。一体どんな名前なんだ?
RL:「東誠一という名前のテロリストです」実は、有名事件の指名手配犯なのですが、彼女はただの女子高生なので、くわしく調べていません。
テツヤ:リサーチフェイズで調査しろってことだな。
RL:「わたしの父がテロリストだったってことなしょうか? 会って、真相を確かめたいんです」
テツヤ:なるほど。
RL:「ちゃんと、報酬も用意いたしました」報酬点1点分の封筒を差し出します。「もし、これだけでは足りないのでしたら、働いて工面します!」
唐巣:普通の高校生には、報酬点1点分ってのは結構な金額ですよ。
報酬点1点は、1~10万円くらいの金額に換算される。報酬点は、アクトで情報収集や購入判定の達成値を伸ばすことにも使える。
エリカ:高校生が万札の入った封筒を出してきたってことだもの。頑張ってバイト代を貯めたのよ。
唐巣:でしょうな。
エリカ:健気よねえ。もっと大きな探偵事務所だったら、「ちゃんと保護者の同意は得ましたか?」とか言われて、門前払いをくらうんでしょうね。
テツヤ:探偵から見たら、報酬としても格安だしな。受ける物好きはそうそういないだろう。
RL:ユウカも、断られるんじゃないかと不安そうにしています。
テツヤ:いや、十分だ。ぜひ、受けたいと思う。
RL:「本当ですか!」
テツヤ:ああ、それにテロリストってのも個人的には気になる。
RL:テツヤは、同僚をテロで失っていますしね。
テツヤ:ユウカには、こう言っておこう。「ただし、調査した結果、君にとって辛い現実が待っているかもしれない。俺は、嘘をついて誤魔化したりするような優しいことはしない。どんなことになっても、受け止める覚悟はできているか?
RL:「はい。どんなことでも受け止めます!」
テツヤ:わかった。では、依頼を引き受けよう。
RL:それでは、テツヤにキーワード【土岐野貞秀】を提示しておきます。
『TNM』の情報収集は、キーワードを調査し、辿っていくことで行なわれる。くわしくは、この先のリサーチフェイズで説明しよう。
RL:ここから先、土岐野貞秀のことを土岐野、土岐野ユウカのことをユウカと呼ぶことにしましょう。
テツヤ:了解した。では、整備したバイクの慣らし運転も兼ねて、ユウカを自宅まで送ってあげよう。
RL:「ありがとうございます! でも、わたし、バイクに乗ったことがないんですが、大丈夫でしょうか……?」
テツヤ:客を乗せるときに使うヘルメットを渡し、「心配することはない」と答えよう。彼女は両親がいないわけだが、暮らしはどうしてるんだ?
RL:親類に引き取られたのち、都内の進学校で勉強するため、援助を受けて部屋を借りてひとり暮らしをしています。
テツヤ:なるほどな。
ゴーストライダーの後部座席にユウカを乗せ、テツヤはエンジンを吹かした。
七年前に失踪した彼女の父、土岐野貞秀は東誠一という指名手配犯と瓜ふたつだというのだ。
土岐野貞秀と東誠一は、同一人物なのか?
七年間の失踪と、ユウカが見たという父の姿――。
謎の多い案件である。
彼女が探偵を頼ってくるのも、わかる話だ。
だからこそ、真相を見つけてやらねばならない。
探偵という道を選んだのも、こうした事件に向き合うためなのだから。
舞台裏でのカードの交換については、以後省略することにさせていただく。