『ゲーマーズ・フィールド別冊Vol.29 トーキョーN◎VA 22nd Anniversary』の発売記念と告知を兼ねて、その冒頭に掲載した座談会「22年目のニューロエイジ」の内容を公開することにしました。
今回は、その中編をお届けします。
(前編をまだご覧になってない方は、こちらからどうぞ)。
中編では、藤井忍先生の『N◎VA』との出会いに始まり、リプレイ『カラミティボックス』、『ファントムレディ』の裏話、そして別冊掲載のリプレイ『ハイスクール・ラプソディ』の話題が語られていきます。
この座談会を読んで『ハイスクール・ラプソディ』に興味を持った方はぜひ『GF別冊29』を読んでみてください。
―――ではそろそろ藤井さんに話を移しましょう。
藤井:はい。よろしくお願いします。
―――藤井さんが『N◎VA』に触れた切っ掛けは何だったのでしょうか?
藤井:私が高校生のときに部活仲間が、「『トーキョーN◎VA』というゲームがあるらしい」というのを教えてくれまして……。
鈴吹:すでにTRPGは遊んでいたの?
藤井:はい。当時すでにTRPG大好きでした(笑)。それで「どんなゲームなんだろう?」と手に取ったのが『トーキョーN◎VA リプレイ ふりむけば死』(*)という文庫のリプレイでした。
鈴吹:懐かしい!
藤井:それまでは、『ソードワールドRPG』(*)のようなファンタジーTRPGを遊んでいたので、新鮮に感じてルールブックを買いました。
鈴吹:藤井さんがルールブックを買って、部活で遊び始めたの?
藤井:はい。なので、最初からプレイヤーではなくRLをしていました。
鈴吹:藤井さんが高校生の頃というと『TN2』?
藤井:はい。『TN2』ですね。当時は22枚のタロットの組み合わせで、色々なキャラクターを作成するだけで新鮮で楽しかったんですよね。
丹藤:なるほど。
藤井:確か、スタイルの組み合わせがだいたい2000通りでしたっけ。
鈴吹:そう。ツクダホビー版に書いてあるんだけど、3つのスタイルの組み合わせが2024通りできるんだよね。
藤井:あとは、「バリバリの戦闘系のキャラクターじゃなくても事件を解決できる」というのが当時は画期的に感じました。
丹藤:たしかに、当時はそれが受けていたところはありましたね。
鈴吹:まず、わかりやすい例でいうと、企業の工作員ができる。そこから企業の重役もできる。
藤井:あと、「銃」と「刀」と「言葉」で戦い合えるというのも新鮮でした。
鈴吹:それは比較的新しい概念だったと思う。見た目は戦闘力のない人物が、戦闘シーンで他人を強化したり、戦闘に貢献したりできるというのは。
丹藤:戦闘能力ではない物語上の役割をもって活躍できるゲームというのは当時は珍しかったですね。
藤井:そこから暫くはずっと『TN2』にはまってましたね。
鈴吹:で好きなキャラクターは夜叉?
藤井:だって、格好いいじゃないですか。リプレイの最初の登場シーンとか、寿司を三人前頼んで熱燗で一杯やるところとか。
鈴吹:その後、F.E.A.R.の事務所で出会った夜叉のプレイヤーは、意外に気さくな人だったと(笑)。
藤井:出会った後で「あの人が夜叉のプレイヤーだよ」と聞かされてびっくりしました(笑)。
丹藤:思い出した。『TN2』のころ『N◎VA』電話の出方が恰好いいと言われてたんですよ。
鈴吹:なるほど。『N◎VA』では電話に出る時の第一声が「もしもし」じゃなくて自分の名前なんだよね。
丹藤:はい。夜叉は「夜叉」って言って電話に出るし、音羽南海子は「南海子」と言って電話に出るわけです。
鈴吹:これはアメリカの映画やドラマの影響です。英語だと自分の名前を言う人が半分くらいいるので。
藤井:そういう理由だったんですね。
丹藤:アメリカ風といえば、本誌掲載のリプレイ「ハイスクール・ラプソディ」の舞台となる新星帝都大学附属高校も微妙にアメリカ風なんですよね。
鈴吹:そうそう。ただ新年度を九月にするとみんな混乱すると思ったので年度の開始四月にしてある(笑)。
●リプレイのキャスト
―――藤井さんは『N◎VA』ではリプレイのキャストとして参加されてきましたよね。
藤井:はい。
鈴吹:最初に『N◎VA』のリプレイに参加したキャストってユエだっけ?
藤井:そうです。『TND』の『ビューティフルデイ あるいはヒュー・スペンサー最後の事件』のユエこと坂本友恵が最初です。
―――ユエは、プレイヤーが藤井さんだと公開されてますね。
丹藤:ユエは今でもタロットのトーキーに描かれていますね。
鈴吹:『TND』のころ、「トーキーのタロットは何故バラを咥えているんですか?」って聞かれたなあ(笑)。
藤井:確かにイラストでは、バラを咥えてますね(笑)。
鈴吹:実は、バラは太陽の象徴として描かれているんだよね。なので『TNX』版のトーキーのタロットにもバラが描かれているというわけです。
藤井:なるほど。
■『TNX』のリプレイ
―――それではそろそろ最新シリーズである『TNX』のリプレイについて語っていただきましょう。
鈴吹:わかりました。では『カラミティボックス』から話しましょうか。
丹藤&藤井:わかりました。
●『カラミティボックス』
―――『カラミティボックス』は『TND』最初のリプレイ集ですね。
鈴吹:はい。なので、『カラミティボックス』では何よりも「この一冊を読んだだけで未プレイの人でも『N◎VA』がわかる」ことを優先しました。
丹藤:「ルールブックを読まなくても、大丈夫」なリプレイにするために頑張りました。あと少しだけ、「こうするとRLがうまくできますよ」ということも書いてあります。
鈴吹:なのでキャッチが「『トーキョーN◎VA』が二秒でわかる!」なんですよ。
藤井:実はあのリプレイの収録は、ルールブックが発売されて、その中身を読み始めた、くらいの頃でしたね。
鈴吹:そういうエントリー用の意図もあって、藤井さんにはリサ(*)をサンプルキャラクターでやってもらったんだよね。
藤井:はい。
鈴吹:なので、『トーキョーN◎VA』ってどんなゲームだろう? と興味を持った人は、まず『カラミティボックス』を読むといいと思います。
藤井:そうですね。
鈴吹:そういえば、今まで公表してきませんでしたが、リサ・シュトラードニッツのプレイヤーは藤井忍さんです。
丹藤:でも、公表はしてなかったけど、何となくバレてますよね(笑)。
鈴吹:まあね。「F.E.A.R.であれだけラブコメできるのは藤井さんでしょう」って読者さんに言われているんだよね(笑)。
藤井:そんな理由でなんですか!?(笑)
―――他になにか『カラミティボックス』の特徴はありますか?
鈴吹:それ以外の特徴と言えば……やっぱり丹藤君の繰り出す面白キャラクターだよな。
丹藤:あれは、「こんなスタイルの組み合わせで、あなたも好きなキャストを色々作れる」という例示としてはとても良かったと思います!
藤井:“バイオリン侍”とか、“伊賀リボルバー流拳銃ニンジャ軍団”とかいましたね(笑)。
鈴吹:なにが伊賀リボルバー流だよ(笑)。どんだけ忍者が好きなんだよ丹藤くんは。
丹藤:大好きですよ! いいじゃないですか忍者。
鈴吹:キャストにオーストラリアからきたニンジャがいたのにな。
藤井:サンダー・タンバーですね。
鈴吹:そうそう。サンダーがゲストに向かって「キャラ被りではないかー!!」と叫ぶシーンは、本当に面白かった。
丹藤:まさかキャラ被りするとは、私も思いませんでしたからね(笑)。
鈴吹:で、第二話には、とんでもロックバンドが出てくるし。
丹藤:“クラシカルカラーズ”ですね。
鈴吹:その丹藤くんが考えた「とんでもロックバンド」を弘司先生がイラスト化してくれているんだよね。凄い格好よく(笑)。
藤井:あれは格好いいですよね。
鈴吹:ほんとに。あと、クラシカルカラーズはシナリオに関係ないどうでもいい部分まで細かく設定が決まってるんだよな(笑)。
藤井:“メンバーの誰と誰が仲が悪い”とか、“音楽性の違いによりデビュー前に脱退したヤツがいる”とか、色々ありましたね(笑)。
丹藤:“伝説の五人目のメンバーがいる”とか設定を決めてました。あと歌詞も頑張って作りました(笑)。
鈴吹:でもお話は「トーキョーN◎VAで発生する大規模テロをキャストたちが解決する」というとてもオーソドックスな内容なんだよな。
藤井:ゲストはともかく、発生するイベントはシナリオを自作するときに参考になりますね。
丹藤:ありがとうございます(笑)。
鈴吹:あとわたしは、実はリサとアキラ(*)が出会うシーンが一番好きなんですよ。
藤井:そうなんですか?
鈴吹:そう。お互いのキャストが知り合いではない状態から、徐々に関係を持っていくのが『トーキョーN◎VA』のひとつの面白さなんで。
丹藤:わかります。お互いの目的を探り合って、確認して、やがて協力し合うというのが良いですよね。
●『ファントムレディ』
―――次は『ファントムレディ』についてお願いします。
鈴吹:『ファントムレディ』は「『TNX』のサプリメントが出たので、ぜひトーキョーN◎VA以外の都市に出かけよう」というコンセプトのリプレイです。
丹藤:第一話がフェスラー公国(*)で、第二話がカムイST☆R(*)でしたね。
鈴吹:『N◎VA』って、ほとんどの場合、キャストはトーキョーN◎VA在住で作成すると思うんです。
藤井:そうですね。基本、N◎VAという都市の中でプレイする場合が多い気がします。
鈴吹:だけど、そのキャストたちがトーキョーN◎VAの外に行ったらどうなるか? 逆に、N◎VAの外から来たらどうなるか。そういう例示としてのリプレイになっています。
藤井:と言いつつ、第一話のリサはずっとトーキョーN◎VAにある自分の部屋にいましたけどね(笑)。
丹藤:そーなんですよねえ(笑)。
鈴吹:そうそう。部屋から一歩も出ないでも、他の場所の事件を解決できるというところが、実にN◎VAらしかったよね。
藤井:アキラがひとりで歩いているように見えるけど、実は三人で登場しているっていう場面も、N◎VAっぽいですよね。
丹藤:オブリビオン(*)とアキラが追う者と追われる者という感じで一対一で対峙するシーンですよね。
鈴吹:はたからみると一対一に見えるんだけど、アキラの左手の甲にレフティ(*)、ポケットロンにリサがいて、実際は一対三だったという(笑)。
藤井:あの場面は、本当に面白かったです。
丹藤:そういうN◎VAの外の例示に加えて、クロガネなどのマイナスナンバーのスタイルを使う例にもなっています。
鈴吹:ところで、話は変わるんだけど、『TNX』になって『カラミティボックス』と『ファントムレディ』と二冊リプレイが出版されたわけですが。
藤井:はい。
鈴吹:同じキャストが二冊にまたがって登場して、シリーズっぽく展開しているのは、これまであんまりなかったことなんですよ。
藤井:あ、そういえば。
丹藤:言われてみると珍しいですね。
『N◎VA』の場合二話やるとキャストが結構死んじゃうからなかなか続きものができない(爆笑)。
鈴吹:キャストが死なないまでも、キャストのお話として完結してしまうしね。
丹藤:あとは『N◎VA』の場合NPCになったりしますね。
鈴吹:そう。で、NPCになるとサプリメントのパーソナリティズに掲載されたりするわけなんですが……。
丹藤:そういえば『カラミティボックス』と『ファントムレディ』に登場しているPCはパーソナリティに収録されていないですよね。これまでは。
藤井:そういえば、そうですね。
鈴吹:でも、本誌で掲載される藤井さんの執筆したリプレイ「ハイスクール・ラプソディ」は、リサから依頼がくるというハンドアウトなんだよね。
藤井:そうです。私がリプレイを書くにあたって、自分のキャストなんで出しやすいというのもあって依頼人のゲストとして登場させました。
●「ハイスクール・ラプソディ」
―――それではこの後に掲載されているリプレイ、「ハイスクール・ラプソディ」についておうかがいしたいと思います。
鈴吹:まず、お面白い部分は舞台が学園であるということ。
藤井:実は私、以前から学園ものの『N◎VA』は面白いんじゃないかと思っていたんですよ。
鈴吹:逆にわたしにはそのイメージは無かった。殺伐とした舞台だし。なんで藤井さんは面白いと思ったの?
藤井:『トーキョーN◎VA』の特徴に、年齢の若いキャストでも十分に活躍できるところがあると思うんです。
丹藤:それは確かに。
藤井:なので、学校のような組織に所属して何かやるというのは楽しいんじゃないかなと思っていました。
鈴吹:実はわたしには、リプレイを収録する前は心配事がありました。
―――どんな心配ですか?
鈴吹:キャラクターの作り方。実は学園以外で使用できない造形のキャラクターばかりになるんじゃないかと心配していました。
丹藤:なるほど。
鈴吹:だけど実際にプレイしてみるとそうでもなかった(笑)。
藤井:皆さんが巧いキャストの作り方をしてくれたお陰だと思います。
丹藤:ああ、それもあるか。
鈴吹:お話は、「学定期テストや学園祭といった学園のイベントをこなしつつ、背後で起きる不穏な事件を学園のキャストたちが解決していく」という王道の展開ですね。
藤井:はい。
鈴吹:ゲームデザイナー的に言うと、
「ハイスクール・ラプソディ」の学内セキュリティが上昇していくというギミックは巧かったと思う。
藤井:ありがとうございます。
鈴吹:詳しく説明すると……シナリオの舞台となる学校は、セキュリティが高いので、アイテムの持ち込みに規制がかかることになります。
丹藤:「学校では銃を持って歩かない」とかそんな校則がある感じで。
鈴吹:そうそう。で、そういう雰囲気をシナリオギミックに活かされた結果、キャストが学園の生徒らしさを追求できるというのがよかった。
藤井:「日本刀を持って学校内を歩くのはNG。なので日本刀に偽装セットをつけて木刀にする」とかすることで急に学校ものっぽくなるのは面白かったです。
丹藤:ちなみに本誌掲載のシナリオ「Seven Wanders in College」は「ハイスクール・ラプソディ」とほぼ同時期の同じ学園を舞台として扱っております。
鈴吹:リプレイを楽しんだら、ぜひシナリオを遊んで欲しいですね。
藤井:あと制作の順番の都合で、リプレイでは使用できなかったんですが、本誌掲載の学園用のアウトフィットもお面白いデータが多いので、ぜひ使って欲しいです。
▼註釈 (*)『トーキョーN◎VA リプレイ ふりむけば死』 『トーキョーN◎VA』のリプレイ集。“死の右腕”メルトダウンや音羽南海子が初登場したリプレイ。 (*)『ソードワールドRPG』 剣と魔法の世界フォーセリアを舞台にしたファンタジーTRPG。制作はグループSNE。株式会社KADOKAWA 富士見書房より発売されている。 (*)リサ 『TNX』のリプレイ『カラミティボックス』のPC、リサ・シュトラードニッツのこと。十七歳の凄腕のニューロ(ハッカー)。“デッドロック”の異名を持つ。 (*)アキラ 『TNX』のリプレイ『カラミティボックス』のPC、根津アキラのこと。N◎VAで探偵業を営んでいる。数本の刀を隠し持ち、それを粉砕して戦う。 (*)フェスラー公国 軌道の大富豪、フェスラー家が金に飽かせて土地を買い取り、N◎VAに隣接する形でできた独立国家。 (*)カムイST☆R シベリアを中心とした旧ロシア、アラスカ、北海道を中心に集まった部族によって建国されたメガプレックス。街を歩けば、妖魔の類を目撃することができる。 (*)オブリビオン 『TNX』のリプレイ『ファントムレディ』のPC。アキラと同じ部隊に所属していた元軍人で一度死んだが、生ける屍として蘇った。 (*)レフティ 『TNX』のリプレイ『ファントムレディ』のPC。国際警察機構ケルビムの捜査官。意思を持ったサイバーウェア。 |