『アリアンロッドRPG2E』を使った異世界トリップシナリオ発想法

 このページでは『アリアンロッドRPG 2E ストレンジャーガイド』の重版を祝して、『ゲーマーズフィールド別冊32 異世界へGO! アリアンロッドRPG2E&剣の街の異邦人TRPG』に掲載された、『アリアンロッドRPG 2Eを使った異世界トリップシナリオ発想法』の記事を掲載いたします。



◎はじめに
 この記事は『アリアンロッドRPG2E』(以後、『AR2E』)を念頭において、“異世界トリップもの”のシナリオをどうやって作るかについて解説することを目的にしています。
 もしかすると以前からゲーマーズフィールド別冊を読んでいる方の中には、この記事が本の冒頭部分に載っていることに違和感を覚える人がいるかもしれませんね。普段なら冒頭は座談会が掲載してありますから。
 いつものゲーマーズフィールド別冊で巻頭に座談会を載せているのは、ゲームデザイナーの声を載せることによりそれぞれの本やゲームの方針を伝えるためです。
 要するに「なんのための特集か」ということを伝えるためなんですね。
 それではなぜ今回は「シナリオ作成講座」みたいな記事を冒頭に据えたのか。それは当然この記事が「なんのための特集か」がわかるような内容になっているからなわけです。
 記事の最後の方で改めて触れますが、どういう部分が「なんのための特集か」になっているのかについては、このまま読み進めていって自分で確認してみてください。

■異世界トリップとは?
 ここでひとつ、確かめておきましょう。“異世界トリップ”という言葉は『AR2E』のサプリメント『アリアンロッドRPG 2E ストレンジャーガイド』で定めた用語です。
 言葉の意味は「現代地球から剣と魔法のファンタジー世界にトリップ(転移する)というような感じになります。
 同じ物語パターンを表すのに他にも色々な単語が使われているのですが、ひとつに絞らないとゲームの用語としては使い勝手が悪いので、この言葉に統一したという次第です。

●エリンへGO!
 また異世界トリップという言葉は『AR2E』に限定すれば、「現代地球という世界からゲームの背景世界である“エリン”に転移するお話」ということになります。
 この『AR2E』における新しい趣向については、シナリオアイディアがドンドン湧いてくる人もいれば、「なにをすればいいんだろうなあ?」と悩んでしまう人もいるんじゃないかと思います。
 また、「アイディア(やりたいこと)は思いつくけれど、それをどうまとめていいものか」に悩んでしまう人もいるかもしれません。
 そんな「上手くシナリオを作れない」人はいったい何からどうすればいいのでしょうか?
 まずはそのことから触れていきましょう。

●特別なことはしない
 まず、ひとつの解決方法として「シナリオ作成では特別なお話の工夫はしない」という手も考えられます。
 誤解を招かないようにあらかじめ言っておくと「一切なんの工夫もしない」という話ではありません。
 もともと『AR2E』というゲームは「剣と魔法の世界を舞台に、ダンジョンなどと呼ばれる障害を突破していく」遊び方が中心のゲームです。
 ですから、プレイヤーの扱うキャラクター(PC)は、ゲーム上の機能として「ダンジョン中などに仕掛けられた障害を突破するための能力」を持っています。
 それは異世界トリップした現代地球人(『AR2E』では“アーシアン”というキャラクタークラスで表現される人々)でも同じです。
 だから現代地球人のPCはエリン出身のPCたちと同じように、既存のシナリオで活躍することができるのです。
 ならばそもそも工夫なんて話はしなくていい?
 それはちょっと違います。
 例えばPCにダンジョンを突破する能力があるとして、その人物が進んで危険な目に遭いたいかどうかはまた別の話です。
 できればそのPCなりの目的をもって(プレイヤーとしては楽しく)ダンジョン(などの障害)を乗り越えてほしいわけで、そのための工夫の余地があります。そういった工夫の中にはアーシアン用のそれもあるわけです。
 例えば、GMが依頼者や村人といったノンプレイヤーキャラクター(NPC)を通してPCに話しかけるのもひとつの方法です。
 GMが「見かけない恰好だな。東方から来たのかい?」とか、PCの発言に対して「なんだそりゃ?」「どこでそんな話を聞いたんだ?」などとNPCを通じて話しかけることで、PCは現代地球からの来訪者という立ち位置を確立し、プレイヤーは会話を楽しむことができるでしょう。

●工夫の余地は?
 すると今度は「じゃあ、わざわざこんな記事を書く意味はあるの?」という疑問がわくかもしれません。
 もちろん答えは「ある」になります。シナリオレベルでできる工夫は多く、それを通じてより楽しく異世界トリップもののお話を楽しもう、というのがこの記事の主旨です。
 ではその工夫とはどんなものなのか?
 このあと順次説明していきましょう。

◎シナリオタイトルを作ってみよう
 突然ですがここで、アーシアンシナリオのタイトルを決めてみましょう。
 下記の「タイトル決定シート」をコピーして使うと便利ですが、なんならメモ用紙や使用済みコピー用紙の裏を使っても問題ないでしょう。
 それから6面体ダイスを用意してください。D66を振るので2個あった方が便利です。
 まずはタイトル決定シートに書いてある、1から6の項目のうち、ひとつをROCして結果を決めてください。
 次に下記に掲載されている「シナリオタイトル」決定表を見てください。
 AからFまで六個の表が載っているはずです。この表をROC(*)して、タイトル決定シートの項目を埋めていってください。
 なお、[F]表をROCするのはベースで6を選択したときだけです。

*ROC
ロール・オア・チョイスの略。ダイスを振って決定しても、プレイヤー自身が選んでもよいという意味。『AR2Eルールブック①改訂版』P24を参照のこと。

■実際に使ってみよう
 では、ここから例示のために、実際に表を使ってみましょう。
▼ベース
 ベースを1D6したところ、5が出ました。
“[A]の[B]が[C]ら[D+E]そうです”という結果になったわけです。
 内容には問題ないので、このまま進めることにします。
▼[A]表
[A]表をD66した結果は36。
「経営者」になりました。
 これもこのまま進めます。
▼[B]表
[B]表をD66した結果は23。
「わたしたち」になりました。
 これもこのまま進めます。
▼[C]表
[C]表をD66した結果は35。
「美味しいものを食べた」になりました。さすがは経営者って感じですね。
 これもこのまま進めます。
▼[D]表
[D]表はD66です。ダイスを振った結果は11。
「優しい」になりました。これもこのまま進めます。
▼[E]表
[E]表をD66した結果は25。
「将軍になった」です。[E]表の結果は[D]表との組み合わせになります。
「優しい」+「将軍になった」の組み合わせで「優しい将軍になった」ということになります。
 ベースが5のときは[F]表は使いません。よって、ここまででタイトルは完成となります。


●結果を見てみよう
 それでは結果を見ていきましょう。
 頭から該当箇所を埋めていくと、“「経営者」の「わたしたち」が「美味しいものを食べた」ら「優しい将軍になった」そうです”となりました。
 どうでしょう、それっぽいタイトルになったと思いませんか?
 例えば「PCたちは現代地球で経営者をしていたところ、事故や召喚でエリンにやってきて、美味しいものの代償として将軍をすることになった」というお話かもしれません。
 あるいは他のお話も考えられます。「美味しいもの」というのは例えば神前に供えられた特殊な食事だったのかもしれませんし、エリンで必死で生き残ろうとしていたときに、村人から恵んでもらった粗末な食事なのかもしれません。他にも色々アイディアが出てくるかと思います。
 ともあれ、そのくらいの想像の働くぐらいにはタイトルっぽいと言っていいかもしれません。
 できればここで、読者の方にも表を使ってみてほしいところです。実際に使うことで、理解が深まると思いますので。
 ただし、面倒だと思うなら、実際に表を使わずに続きを読んでいただいてもかまいません。

●種明かしをひとつ
 さて、表を使ってタイトルが決まりました……というこのタイミングでひとつ種明かしをしておきます。
 実は表を使った結果についてですが、そのまま『AR2E』のシナリオタイトルに使えるとは限りません。
 というのも、プレイヤーには隠しておきたいオチに当たる部分まで、決まっていてネタバレになる場合があるからです。
 ただし、絶対に使えないというわけでもありません。組み合わせによっては先ほどの例のように、オチにあたる結果とその前との間にギャップがあってタイトルとして使えるケースもあるでしょう。
 とはいえ、この記事の趣旨としてはどちらでも問題なかったりします。
 この記事でのポイントはこれらのチャートをつかうと「なぜタイトルっぽいテキストが生成されるか」にあります。そこがこれから解説する「異世界トリップもののシナリオ」の構造と関係していて、それを解き明かすことが異世界トリップもののシナリオを作るさいに役立つのです。

◎シナリオタイトル決定表に隠された秘密
“異世界トリップ”というのは、私たちの住んでいる世界に似た現代地球という世界から『AR2E』の舞台であるエリンにトリップ(転移)するというパターンのお話でしたね?
 そのパターンと「シナリオタイトル作成表」がどんな関係にあるのかを見ていきましょう。
▼[A]~[C]
 シナリオタイトル作成表のうち、[A]表には、人物の現代地球での立ち位置を並べてあります。
 次に[B]表ですが、この表は[A]表の人物が「PC目線で」どんな関係なのかについてまとめてあります。例えば[B]表の結果が「わたし」だった場合、[A]表の人物はPCの誰かになります。
 次の[C]表はシナリオのイベントが起こる切っ掛けを並べてあります。そして[C]表の項目は、基本的に現代地球でなら「日常的にしている」ことだったり、あるいは「やろうと思えばできる」ことです。
▼[D]と[E]
[D]表と[E]表はひと組のセットになっています。
 これはすぐに分かると思いますが、[D]表には[E]表の内容を形容する言葉を並べています。
 例えば「名状しがたいモンスターになった」とか、「美しい戦艦になった」といった具合ですね。
 そして[E]表の内容は、異世界を舞台にしたファンタジー作品で起こりそうな事件を並べてあります。
▼[F]表とベース
[F]表は「○○譚」、つまりなにについてのお話かに適した単語を並べてあります。
 ベース表の項目も含む話ですが、ここで表現されているのは「お話のトーン」です。
 例えば「なにか?」というタイトルは、その問いを発している誰かの物語であることを意味します。また、ちょっとつっけんどんな言い回しは物語の対象になっているキャラクターの自尊心の強さをうかがわせます。
 対して「○○譚」の場合。対象とお話に距離があり、「こういうお話だよ」と説明している感覚が現れています。例えば「なにか?」に比べた場合客観的な感じになるわけです。

■別の仕掛けがあるんです
 ここで改めて全体を見直してみましょう。[A][B][C]の表は現代に関係ある事柄が、[D]表と[E]表にはセットで異世界での事柄が書いてあるわけです。
 そうなると異世界トリップのお話が想起されて当然……となるわけですが、実は別の仕掛け、というかこの記事の中心となる要素はここにあるのです。

◎鍵はギャップ
 その仕掛けとは、表の中の「現代の要素」と「異世界の要素」に関連がないように、つまりわざとギャップができるように作ってあるということです。
 さらに[D]表に形容詞が並んでいるのは、[C]表と[E]表の内容がよりギャップを生むようにするための仕掛けです。
 なんでそんなにギャップを作りたいのか?
 それこそが異世界トリップもののシナリオを作るさいの鍵だからです。

■ギャップの分類
 とはいえ、ギャップギャップと連呼していても、いまひとつ曖昧でとらえ所がありません。
 そこで、ギャップという要素を「ミスマッチ」「フィールイン」「メタフィクション」という三つの側面から、それをどう取り扱えばよいのかについて考えてみましょう。

●ミスマッチ
 ミスマッチとは、「調和しない組み合わせ」のことです。例えばファッションなどで使われる言葉です。
 本来ネガティブな意味の言葉なわけですが、そこから「あえて調和しない面白さを狙う」というような意味も派生しました。
 例えば「異世界グルメ」などと呼ばれる「現代地球の美味しい食事を異世界人が食べたらどうなるか?」というタイプのお話などは、分かりやすいミスマッチの例といえるでしょう。

●フィールイン
 フィールインとは「fill in」、つまり「埋める」という意味です。
 では具体的に「なにを埋めるのか」というとギャップを埋めるということになります。「fill in the gap」ということですね。
 例えば、あるPCが「いきなり自分がモンスターに転生していることに気がついた」としたら、そのPCが「自分がモンスターになった理由を知りたい」と考えて、調査をするというのはフィールインの一例です。
 異世界に行って何かに転生したり変身したりする小説などをよく見かけますが、主人公をいきなり追い込めるという便利な様式なわけです。

●メタフィクション
 フィクションの中にフィクションを取り込んだ内容のお話です。
 例えば『AR2E・リプレイ・フォーリナーズ』のPCであるラヴィニアは自身を「悪役令嬢」とみなしていました。彼女にとってはエリンでの生活は第二の現実のはずですが、それを「客観視する自分」を持っていた、ことがメタ要素になります。

●相互に関連する
 これら三つの要素は単独で現れるということは滅多にないでしょう。
 例えばミスマッチになるようなアイテムがダンジョン内に落ちていたとしたら、「なぜ落ちているのか?」理由を求める、つまりフィールインが発生するでしょう。
 あるいは、先ほど例にあげたラヴィニアのように「あれ?
 自分が異世界にいるっていう小説を読んだことある」という発想で、自分の置かれた立場のギャップを埋るというのはメタフィクションとフィールインが同時に起きているわけです。
 そんなわけで、三つの要素は関連して発生するものなのですが、シナリオのアイディアを考える際に「自分がどの要素を中心に考えているか」を意識するとシナリオを思いつきやすくなったり、アイディアを上手くまとめられたりするのです。
 そんなわけで、ここからそれぞれの要素について個別にアイディアの出し方や展開の方法について説明していきましょう。

◎ミスマッチ
 ミスマッチは「調和しない組み合わせ」であり、それを面白く組み合わせることがシナリオでミスマッチを活かすことにつながります。
 ではどういうミスマッチが面白いのでしょうか?
 実は「人それぞれな上に時期によって変化する」ので、これは絶対面白いというミスマッチの例はあげにくかったりします。
 しかし、あなたにとって面白いミスマッチを発見する確率を上げる方法はあります。「ランダムを利用する」のです。
 改めてP7の「シナリオタイトル作成表」をご覧ください。
 先に[A][B][C]の表は現代に関係ある事柄が、[D]表と[E]表にはセットで異世界での事柄が書いてあると書きました。
 当然[A][B][C]と[D][E]の間にミスマッチが発生するわけですが、実は[A][B][C]の間でも[D]と[E]の間にもミスマッチになる要素を入れてあります。
 例えば「凡人のヒーロー」や「美しい建国をする」などはミスマッチとなるわけです。

●面白い組み合わせとは?
 では、その組み合わせが面白いかどうかですが、判定の方法はふたつあります。ひとつはあなた自身がその組み合わせを見て「ぷっ」と噴き出してしまった場合。要するに面白いから噴き出しちゃうわけで、それを活かさない手はありません。
 もうひとつは組み合わせを見た瞬間にあなたの頭の中でそのミスマッチが起きた理由を思いついてしまった場合。そもそもシナリオを作るのが目的なのですから、その閃きを活かしてシナリオを作り上げてしまえばいいのです。
 そういう練習を繰り返しているうちに、組み合わせるコツのようなものがつかめるようになると思います。そして、コツさえ分かれば必ずしも表やランダムに頼らなくても、アイディアが思いつくようになるでしょう。
 例えば、「勇者のパーティが深夜のファミレスにいたら?」という組み合わせが面白いと思ったとしましょう。
 そこから「異世界とコンビニ」「異世界とネット通販」「異世界と戦闘機」、といった具合に「もしファンタジー世界と無縁そうなものがあったら?」という具合に、面白さの法則を自分で意識できるようになるということです。
 また、落語の三題噺のようにプレイヤーにお題を出してもらい、それらを結びつける、という手段も訓練に有効です。その場合、プレイヤー同士が相談しないように、別々に紙に単語を書いてもらい、それをまとめるとよいでしょう。

◎フィールイン
 次はフィールインの要素に着目してみましょう。慣れない言葉だとは思いますが、難しく考える必要はありません。というのも、フィールインの要素は異世界トリップというお話と、とても相性がいいからです。
 例えばPCたちがダンジョンでアイテムを見つけたとしましょう。そのアイテムは「巻き付けてある紙を剥ぐと中から銀色に光る薄い膜が現れる。さらにその膜を剥ぐと、整然としたパターンの凹凸がある黒い板状の物体が現れる」と描写してみましょう。
 そのアイテムがなんなのか、この情報だけでは分かりませんよね?
 しかし続けて「その板を持って見ると、硬い……と思ったらドロリと溶けて、手についた」、「手についた黒ずんだものから甘い香りが漂ってくる。思わず舐めてしまうと、苦みと甘みが口の中一杯に広がる」、などと描写するとプレイヤーはその正体が板チョコだと気付くでしょう。
 このように描写の仕方でフィールインの発生する状況は容易に起こせます。現代地球の知識を活かすのとは逆に、弱いエネミーを怖そうに描写することで同じようにフィールインを起こせるでしょう。
 そのように考え出すと、異世界トリップというお話は、フィールインの宝庫に思えてくるかと思います。

●実例を挙げてみる
 より具体的なフィールインの例として、『アリアンロッドRPG2E
 スーパーシナリオサポートVol,1 妖魔と戦車とアーシアン』に掲載されている「奇妙な訪問者」というシナリオが参考になります。
 せっかくですからネタバレにならない範囲でシナリオの概要を説明しておきましょう。
 PCたちは、ある町にいるというアーシアンについて調査を依頼されます。その町では以前町長がアーシアンに助けられたことがあり、恩義からアーシアンに親切にしてくれるそうなのです。ところが、最近やってきたアーシアンがどうも怪しい。そこで彼らについて調べてほしい、というのです。
 PCたちが調査すると、そのアーシアンたちの挙動があからさまにおかしいことがわかるのですが、それには理由があって……という具合に謎が連鎖するようなシナリオになっています。
 もしまだ未読であるというGMは、ぜひ参考にしてみてください。

◎メタフィクション
 本来のメタフィクションは、例えば小説の登場人物がその中で小説について論じているというような、多重構造を指す言葉です。
 しかし、この記事では言葉の範囲を広げて、例えばパロディやオマージュなどもメタフィクションの一種として扱います。というのも、PCは知らなくてもプレイヤーが知っていて面白い話があります。これをメタフィクションとして考えることでシナリオの発想の幅を広げることができるからです。
 元よりPCとプレイヤーという二重構造になっているTRPGはメタフィクション要素を抜きにはできないわけですが、ファンタジー世界に現代地球人が行くというタイプのお話は、一層相性がよいのです。

●フィールインとメタフィクション
 例えば前述の「黒い板状のもの」の描写などはプレイヤーの知識があり、かつそれをアーシアンのPCが知っているということでお話が成立します。
 この時点でメタフィクション構造を持っているわけです。
 例えば、PCが「謎解きに失敗すると死亡してしまい、何度もある時点に戻ってしまう」という状況に置かれたとしましょう。これは正解当てのチャンスを持てるという点でフィールインに向いた設定ですが、それを「コンピュータRPGのセーブポイントのようなもの」とPCが理解するならばそれはメタフィクション要素も併せて持っていることになります。

◎アイディアをまとめる
 さて、ここまで“異世界トリップもの”のシナリオの発想方法について解説してきました。
 次のステップとして、発想のまとめ方について説明しようと思います。

■具体例で考える
 発想のまとめ方を説明するために、先ほど表を振って決めた「経営者のわたしたちが美味しいものを食べたら、優しい将軍になったそうです」を使って考えてみましょう。
 ところで、先に「『AR2E』は、ダンジョンなどと呼ばれる障害を突破していくゲーム」と書きましたが憶えておられるでしょうか?
 つまり『AR2E』の場合は最終的にダンジョンのような障害を突破するようなシナリオに仕立てれば、ゲームとして成立するのです。
 もちろんダンジョン以外にももっと様々な選択肢はありますが、逆に選択の幅が広すぎてもまとめるのが難しいので、とりあえずゴールをダンジョンシナリオに設定しましょう。

●逆算して考える
 こういう場合、お話の頭の方から決めていく方法と結末から逆算する方法があります。ここでは逆算で構成を組み立てることにします。つまり、「優しい将軍になった」という結末をどう迎えるかを考えるのです。
 まず、「優しい将軍」とはなんでしょう?
 戦争に弱い将軍?
 あるいは可愛らしい少女とかお婆さんのように外見が優しい将軍?
 様々なアイディアが湧いてきそうですが、ここでは「民に優しく、兵に公平」な将軍、ということにしましょう。
 次に、「PCがどうやってそんな将軍になるのか」ですが、ここは思い切ってシナリオハンドアウトにそう書いてしまいましょう。ハンドアウトに書いて、プレイヤーがそれを選択してくれれば「優しい将軍」の出来上がりです。
 次にその「優しい将軍」がどのようにダンジョンを突破するシナリオに仕立てるかということになります。
「民に優しく、兵に公平な将軍」は、いかにも悪い同僚や上司に嫌われていそうですね。
 そこで、悪い上司ににらまれてしまい、無実の罪(反逆とか、虐殺とか)を被せられ、しかも人質を取られたために身の潔白を証明すべくダンジョンを突破せねばならない、という展開なんてどうでしょうか?
 なんとかダンジョンシナリオに持ち込めそうですね?

●前の方を詰めてみる
 次に、アーシアンであることを活かすにはどうしたらいいでしょう?
 そろそろ前半の「経営者のわたしたちが美味しいものを食べた」を使ってみましょう。
 PCのアーシアンが現代地球で経営者だったことにするのは、シナリオハンドアウトや今回予告に書くことで実現できます。
 問題は「わたしたち」の部分です。PC全員が元から知り合いで、例えば「商店街の店主たちだった」なんて設定にもできます。
 さすがにこれは縛りすぎかなと思ったら、PCのうちふたり以上のハンドアウトに「経営者だった」と書いて、設定をプレイヤーに任せるという考え方もあります。
 一概にどちらがいいとはいえないのですが、迷うようであれば取りあえずプレイヤーに任せる方向にして他の部分を詰めていくことができます。
 次に、「美味しいもの」ってなんでしょう?
 経営者であれば美味しいものを食べること自体は不自然ではないでしょう。問題は、なぜそれを食べると優しい将軍になれるかです。
 食べると優しい将軍になれる美味しいもの……そんな不思議な食べ物はなにか魔法的なものかもしれませんね。
 では、PCが転生して現代地球からエリンに来る間に神様から使命を授かるさいに神様のご飯を食べてしまったというのはどうでしょう?
 もしもPCが「つい美味しそうで手を出してしまった」ことにするならそのことはハンドアウトに書いておく必要があります。
 そこまで指定したくないという場合は神様から勧められた方がよいでしょう。ただし、PCが疑って美味しいものを食べてくれないかもしれません。その場合は神様のご飯について効能を説明するなどしてプレイヤーを促す必要があります。
 優しくなる効能は、民衆の支持率みたいな数値をシナリオ内ルールで設定してそれが高いほど戦闘能力が上がったり、兵士の士気が上がるなんていう手はありますね。いわゆる「チート」表現です。
 この辺も、「そこまでGMが決めなくてもいいだろう」と判断するなら、特に設定をしなくてもかまいません。その場合、シナリオタイトルから「優しい」を抜けばすむだけですから。

●前後をまとめてみる
 それではシチュエーションをまとめてみましょう。
 PCたちは現代地球で経営者をしていました。ところが何かの切っ掛けで、集団でエリンに召喚または転生することになりました。
 そのとき、神様の美味しい食事を食べたことにより、将軍としての「チート」能力を授かってしまいます。
 エリンにやってきたPCたちはチートの力で将軍として頭角を表しました。
 ところが、PCたち優しい将軍を快く思っていない軍務大臣がPCたちに虐殺の罪をきせます。放置すると民の支持が下がりPCたちが弱体化してしまいます。
 ここまでがオープニングフェイズ、またはミドルフェイズの出だしくらいまでに展開する範囲です。
 そして、身の潔白を証明するために「審判の迷宮」と呼ばれるダンジョンを攻略するように言われます。もちろん、悪い軍務大臣は罠を仕掛けており、PCはその罠を潜り抜けながら、身の潔白を証明します。
 最後は、軍務大臣の放った刺客を返り討ちにするという終わり方もありますし、逆に軍務大臣の罪を暴いて退治するという結末もありでしょう。
 シナリオが単発なのか、それとも連続するのかなどの状況によって、採るべき結末が変わってくるでしょう。
 どうでしょう。あとはダンジョンの配置を決めて個々のデータを置いていけば、遊べるシナリオにはなるのではないでしょうか?

■別のお話を考えてみる
 それではここから「経営者のわたしたちが美味しいものを食べたら、優しい将軍になったそうです」というタイトルから全く別のお話を考えてみましょう。
 現代地球でいわゆるブラック企業の経営者だったPCたちは、エリンに転生しチューシのNPCが作ったご飯を食べ幸せな気持ちになりました。そして、生前の行ないを反省して和風鉄板料理の店“将軍”をオープンさせました。もちろん従業員に優しいお店です。
 ところが、その店を快く思わない他店から妨害され、お店がピンチになってしまいます。王様の主催する料理大会で優勝し、店を救うためPCたちは希少な食材が手に入るダンジョンに挑むことになりました。
 どうでしょう?
 こういうお話でもシナリオになりますよね。


●ミスマッチは色々使える
 このお話のポイントは将軍という言葉をあえて普通は結びつかない料理店とくっつけたことです。ミスマッチを狙ったわけですね。
 ミスマッチ、フィールイン、メタフィクションという考え方は、お話の全体像を組み立てるだけでなく、より具体的に細部を作っていくさいにも役立つのです。
 最終的に「ダンジョンに行く」というゴールにさえ結びつけば、その途中はいくらでも展開を考えるくらいに考えちゃってもいいかと思います。
 というわけで、「ダンジョンに行く理由決定表」を作ってみました(P13参照)。
 タイトルと、この表の結果の間を埋めれば『AR2E』のシナリオとして遊べるものができあがるでしょう。

◎最後に
 恐らく、ここまで記事を読んでぼんやりとシナリオを作り上げるために何をすればよいかが分かってきたものの、いざ作ろうとすると考え込んでしまう、という人もいるかと思います。
 そういう人は、とにかく数をこなすことをお薦めします。
 シナリオタイトル決定表とダンジョンに行く理由決定表を組み合わせて、「こんな感じの話」というシナリオのアイディアを作り、どんどん貯めていくのです。
 そして、いざGMをする必要ができたときなどに、作りためたシナリオのアイディアを見返してみましょう。もしかすると、その時になって「ピン!」とくるものが見つかるかもしれません。
 この辺は異世界トリップもののシナリオに限らず、TRPGのシナリオ作成一般に通用するコツだと思います。

●理由
 最後の方にもちょっと書きましたが、実は今回紹介した手法は異世界トリップもの以外にも応用が利きます。
 その上で、TRPGのシナリオを作るさい異世界トリップものというジャンルはかなり作りやすい、相性がいいことも分かっていただけたかと思います。
 冒頭部分に書いた「なんのための特集か」の答えですが、それは「異世界トリップものをもっと楽しもう」ということになります。そのために、異世界トリップものがどんな風にできているかを紹介する目的でこの記事を冒頭に置いたのです。
 この後に載っている記事を読みながら「なるほどなあ」と思ってもらえると、この記事は役割を果たしたことになるでしょう。
〈了〉

22年目のニューロエイジ
(GF別冊29座談会・後編)

『ゲーマーズ・フィールド別冊Vol.29 トーキョーN◎VA 22nd Anniversary』の発売記念と告知を兼ねて、その冒頭に掲載した座談会「22年目のニューロエイジ」の内容を公開することにしました。
 今回は、その後編をお届けします。
(前編・中編をまだご覧になってない方は、こちら(前編中編)からどうぞ)

 今回は、いよいよ2015年4月発売予定の新サプリメント『トーキョーN◎VA THE AXLERATION サプリメント ビハインド・ザ・ダーク』、そして4月発行のGF誌にて連載開始となる新リプレイに関する話題へと移っていきます。

座談会TOP
■『ビハインド・ザ・ダーク』
―――続いては新サプリメント『ビハインド・ザ・ダーク』のお話をお願いします。
鈴吹:はい。二〇一五年の四月に『TNX』のサプリメント『ビハインド・ザ・ダーク』が発売となります。
藤井:とても楽しみです!
鈴吹:既刊のサプリメント『クロス・ザ・ライン』では世界拡大傾向の強い内容になっております。
―――世界拡大傾向、ですか?
鈴吹:はい。世界中の色々なエリアを拡大しながら、キャストがやれることを増やすという狙いがありました。
―――なるほど。
鈴吹:対して『ビハインド・ザ・ダーク』はN◎VAのディープな部分、トーキョーN◎VAという都市を深く掘り下げよう、というコンセプトになっています。
藤井:「ディープ」と聞くと、なんだかワクワクしてきますね(笑)。
鈴吹:まず、このサプリメントの目玉は、今までに読者の皆様から投稿していただいたキャストや組織、シナリオネタなどを可能な限り取り上げていることです。
丹藤:担当の大畑君が現在頑張っています。
鈴吹:キャストの敵や味方になる組織やパーソナリティを掲載して、アクトがもっと楽しくなるような仕掛けをしております。
丹藤:パーソナリティと言えば、さっき話題になった『ファントムレディ』のキャストがついに掲載されるんですよね。
鈴吹:そう。なんとレフティーがパーソナリティとして収録されます。
藤井:質問です。なぜパーソナリティになるのがレフティなんですか?
鈴吹:ひとつは、単純に、レフティはコネクションとして使いやすいキャストだと思うから。
丹藤:確かに、レフティならみんなコネクションを結んでくれるんじゃないかという気がしますね。
藤井:レフティとコネクションを結ぶと、そのキャストがレフティになってしまうんじゃないですか?(笑)
丹藤:確かに! クロガネのキャストを作って「俺レフティ」ってやりたくなるなぁ(笑)。
鈴吹:簡単に説明しておくと、レフティというのは左手に埋め込まれたサイバーウェアというキャラクターです。
丹藤:さっきも触れましたが『ファントムレディ』に登場したキャストです。他のキャストとコンビになって活動するというコンセプトのキャラです。もちろんレフティの他にも追加データなど見どころは用意してますよ。
丹藤:痒いところに手が届くような技能やアウトフィットを活用して、皆さんのキャストをカスタマイズしてください。
鈴吹:そしてもうひとつの目玉は、旧版で特にRLの皆さんが色々な形で利用してくれた、ダブルハンドアウトルールの導入です。
丹藤:ダブルハンドアウトというのは、シナリオハンドアウトをひとりにたいして二枚渡すというものです。
藤井:わりと、そのまんまなネーミングですね(笑)。
丹藤:そのうち二枚目のハンドアウトの方は他のプレイヤーに隠しておきます。
鈴吹:「隠された真実」をキャスト同士が持ち合って、それを探り合うというシナリオを遊ぶためのルールですね。
丹藤:ただ、ダブルハンドアウトは色々難しいルールではあります。
鈴吹:そこで、参考用にダブルハンドアウトを使用したリプレイを始めることにしました。
藤井:『GF19th Vol.4』から掲載予定なんですよね。
丹藤:RLは、わたくし丹藤が務めるのですが……。
鈴吹:ここでひとつ工夫をすることにしました。
藤井:そうなんですよね。
鈴吹:ダブルハンドアウトルールを臨場感をもって書く。そのためにはRLが執筆するよりプレイヤーが書いた方がいいだろう、と。
丹藤:「他のプレイヤーがどんな秘密を持っているのか」を知らないプレイヤーの側から執筆した方が臨場感が増すという仕掛けなわけですね。
鈴吹:はい。そう考えまして今回は、PC①のリサ・シュトラードニッツをお願いした藤井忍さんに執筆をお願いしました。
一同:わー!(ぱちぱちと拍手)
藤井:ありがとうございます。頑張ります。
丹藤:なお、リプレイのタイトルは「沈黙者のゲーム」になります。
鈴吹:藤井さんには、本誌のリプレイに引き続き、頑張っていただくということで、お願い致します。
藤井:こちらこそ、よろしくお願いします。

■新リプレイについて
―――それでは次に、藤井さんが書く新しい『N◎VA』のリプレイについてうかがおうと思います。
藤井:はい。
―――プレイヤーとしてリプレイを書くわけですよね。ちょっと変わったスタイルだと思いますが、なにか苦労などはありましたか?
藤井:苦労、ですか? ……これは私だけかもしれませんが、自分の“キーハンドアウト”の内容を隠しつつ、他の人の“キーハンドアウト”の想定しながら動くのが難しかったです。
丹藤:なるほど(笑)。
藤井:私は隠し事をするのが苦手なんですよ。どうしても表情とかに出ちゃうらしいので。
鈴吹:プレイ中に面白かったのが、誰かが自分の“キーハンドアウト”に関する何かを言った瞬間、藤井さんが「えっ!? 嘘っ!?」って言う(笑)。
一同:(笑)
鈴吹:そして毎回自分の“キーハンドアウト”を見直すんだよね。
丹藤:あれは面白かったです(笑)。
藤井:あの時は自分が“キーハンドアウト”の内容を読み間違えたかと思って何度も確認しちゃいました。
丹藤:実は私、今回のリプレイが楽しみで仕方ないんです。
―――というと?
丹藤:普通、プレイ中にプレイヤーがどんな気持ちでいたのかってわからないじゃないですか。
鈴吹:それはそうだね。
丹藤:ところが、プレイヤーがどんな気持ちだったを語ってくれるわけです。
―――確かに。
丹藤:なので、それがとても楽しみなんです(笑)。
鈴吹:そういえば、藤井さんは、セッション中に、今自分がどんな気持ちなのかメモしてたんだよね(笑)。
丹藤:そうそう。声に出さないように気をつけながら(笑)。
藤井:普通のリプレイなら、その時思
ったことを声に出して残しておけるじゃないですか。
鈴吹:そのために録音しているからね。
藤井:ところが、「気持ち」を声に出すとキーハンドアウトに書いてある秘密がバレちゃうので言えないわけですよ。でも記録は残さないといけないので、その場でメモしてました(笑)。
鈴吹:そんな感じでちょっと普段と違う面白いセッションでした。ぜひお楽しみに。
―――他になにか楽しかったことはありますか?
藤井:楽しかったところですか。全体的にすごく楽しかったので、どこをピックアップしていいか迷いますね。
鈴吹:アクト中緊張して食べられなくなったご飯が、緊張が解けたとたん美味しく食べられるようになったとか(笑)。
藤井:それはありますね(笑)。すごい緊張してました。
鈴吹:そして、そんな藤井さんが“キ
ーハンドアウト”の内容を公開した瞬間、
プレイヤー全員が「そうか、そうだったのかっ!!」って反応したという(笑)。
藤井:え? そうでしたっけ?
鈴吹:そうなんですよ。藤井さんが自分ではわかってないというところが、面白かった(笑)。
藤井:そう言われてみればそんなこともあったような……。
丹藤:実はみんなが知りたい情報を握っていたわけですよ。
藤井:なるほどー。
鈴吹:そういう落差があるところが、ダブルハンドアウトの面白いところですね。
丹藤:シナリオを作成するのは少し大変なんですが、ダブルハンドアウトは楽しいですよ。みんなでダブルハンドアウトのシナリオをドンドン作りましょう!
藤井:まずは参考用に『GF19th Vol.4』から掲載のリプレイを読んで頂ければと思います。
鈴吹:先ほども申したように、大変緊張感あふれる楽しいリプレイになっております(笑)。
藤井:お楽しみにお待ちください。
鈴吹:そして、リプレイを読んでお面白かったら『ビハインド・ザ・ダーク』を買って、実際にダブルハンドアウトのシナリオをプレイしてください。
一同:宜しくお願い致します!
―――では、今回はこの辺で終わりにしたいと思います。ありがとうございました。
一同:ありがとうございました。
〈了〉

ビハインド・ザ・ダーク

22年目のニューロエイジ
(GF別冊29座談会・中編)

『ゲーマーズ・フィールド別冊Vol.29 トーキョーN◎VA 22nd Anniversary』の発売記念と告知を兼ねて、その冒頭に掲載した座談会「22年目のニューロエイジ」の内容を公開することにしました。
 今回は、その中編をお届けします。
前編をまだご覧になってない方は、こちらからどうぞ)。
 中編では、藤井忍先生の『N◎VA』との出会いに始まり、リプレイ『カラミティボックス』、『ファントムレディ』の裏話、そして別冊掲載のリプレイ『ハイスクール・ラプソディ』の話題が語られていきます。
 この座談会を読んで『ハイスクール・ラプソディ』に興味を持った方はぜひ『GF別冊29』を読んでみてください。

座談会TOP

■藤井忍の場合
―――ではそろそろ藤井さんに話を移しましょう。
藤井:はい。よろしくお願いします。
―――藤井さんが『N◎VA』に触れた切っ掛けは何だったのでしょうか?
藤井:私が高校生のときに部活仲間が、「『トーキョーN◎VA』というゲームがあるらしい」というのを教えてくれまして……。
鈴吹:すでにTRPGは遊んでいたの?
藤井:はい。当時すでにTRPG大好きでした(笑)。それで「どんなゲームなんだろう?」と手に取ったのが『トーキョーN◎VA リプレイ ふりむけば死』(*)という文庫のリプレイでした。
鈴吹:懐かしい!
藤井:それまでは、『ソードワールドRPG』(*)のようなファンタジーTRPGを遊んでいたので、新鮮に感じてルールブックを買いました。
鈴吹:藤井さんがルールブックを買って、部活で遊び始めたの?
藤井:はい。なので、最初からプレイヤーではなくRLをしていました。
鈴吹:藤井さんが高校生の頃というと『TN2』?
藤井:はい。『TN2』ですね。当時は22枚のタロットの組み合わせで、色々なキャラクターを作成するだけで新鮮で楽しかったんですよね。
丹藤:なるほど。
藤井:確か、スタイルの組み合わせがだいたい2000通りでしたっけ。
鈴吹:そう。ツクダホビー版に書いてあるんだけど、3つのスタイルの組み合わせが2024通りできるんだよね。
藤井:あとは、「バリバリの戦闘系のキャラクターじゃなくても事件を解決できる」というのが当時は画期的に感じました。
丹藤:たしかに、当時はそれが受けていたところはありましたね。
鈴吹:まず、わかりやすい例でいうと、企業の工作員ができる。そこから企業の重役もできる。
藤井:あと、「銃」と「刀」と「言葉」で戦い合えるというのも新鮮でした。
鈴吹:それは比較的新しい概念だったと思う。見た目は戦闘力のない人物が、戦闘シーンで他人を強化したり、戦闘に貢献したりできるというのは。
丹藤:戦闘能力ではない物語上の役割をもって活躍できるゲームというのは当時は珍しかったですね。
藤井:そこから暫くはずっと『TN2』にはまってましたね。
鈴吹:で好きなキャラクターは夜叉?
藤井:だって、格好いいじゃないですか。リプレイの最初の登場シーンとか、寿司を三人前頼んで熱燗で一杯やるところとか。
鈴吹:その後、F.E.A.R.の事務所で出会った夜叉のプレイヤーは、意外に気さくな人だったと(笑)。
藤井:出会った後で「あの人が夜叉のプレイヤーだよ」と聞かされてびっくりしました(笑)。
丹藤:思い出した。『TN2』のころ『N◎VA』電話の出方が恰好いいと言われてたんですよ。
鈴吹:なるほど。『N◎VA』では電話に出る時の第一声が「もしもし」じゃなくて自分の名前なんだよね。
丹藤:はい。夜叉は「夜叉」って言って電話に出るし、音羽南海子は「南海子」と言って電話に出るわけです。
鈴吹:これはアメリカの映画やドラマの影響です。英語だと自分の名前を言う人が半分くらいいるので。
藤井:そういう理由だったんですね。
丹藤:アメリカ風といえば、本誌掲載のリプレイ「ハイスクール・ラプソディ」の舞台となる新星帝都大学附属高校も微妙にアメリカ風なんですよね。
鈴吹:そうそう。ただ新年度を九月にするとみんな混乱すると思ったので年度の開始四月にしてある(笑)。

●リプレイのキャスト
―――藤井さんは『N◎VA』ではリプレイのキャストとして参加されてきましたよね。
藤井:はい。
鈴吹:最初に『N◎VA』のリプレイに参加したキャストってユエだっけ?
藤井:そうです。『TND』の『ビューティフルデイ あるいはヒュー・スペンサー最後の事件』のユエこと坂本友恵が最初です。
―――ユエは、プレイヤーが藤井さんだと公開されてますね。
丹藤:ユエは今でもタロットのトーキーに描かれていますね。
鈴吹:『TND』のころ、「トーキーのタロットは何故バラを咥えているんですか?」って聞かれたなあ(笑)。
藤井:確かにイラストでは、バラを咥えてますね(笑)。
鈴吹:実は、バラは太陽の象徴として描かれているんだよね。なので『TNX』版のトーキーのタロットにもバラが描かれているというわけです。
藤井:なるほど。

■『TNX』のリプレイ
―――それではそろそろ最新シリーズである『TNX』のリプレイについて語っていただきましょう。
カラミティボックス鈴吹:わかりました。では『カラミティボックス』から話しましょうか。
丹藤&藤井:わかりました。

●『カラミティボックス』
―――『カラミティボックス』は『TND』最初のリプレイ集ですね。
鈴吹:はい。なので、『カラミティボックス』では何よりも「この一冊を読んだだけで未プレイの人でも『N◎VA』がわかる」ことを優先しました。
丹藤:「ルールブックを読まなくても、大丈夫」なリプレイにするために頑張りました。あと少しだけ、「こうするとRLがうまくできますよ」ということも書いてあります。
鈴吹:なのでキャッチが「『トーキョーN◎VA』が二秒でわかる!」なんですよ。
藤井:実はあのリプレイの収録は、ルールブックが発売されて、その中身を読み始めた、くらいの頃でしたね。
鈴吹:そういうエントリー用の意図もあって、藤井さんにはリサ(*)をサンプルキャラクターでやってもらったんだよね。
藤井:はい。
鈴吹:なので、『トーキョーN◎VA』ってどんなゲームだろう? と興味を持った人は、まず『カラミティボックス』を読むといいと思います。
藤井:そうですね。
鈴吹:そういえば、今まで公表してきませんでしたが、リサ・シュトラードニッツのプレイヤーは藤井忍さんです。
丹藤:でも、公表はしてなかったけど、何となくバレてますよね(笑)。
鈴吹:まあね。「F.E.A.R.であれだけラブコメできるのは藤井さんでしょう」って読者さんに言われているんだよね(笑)。
藤井:そんな理由でなんですか!?(笑)
―――他になにか『カラミティボックス』の特徴はありますか?
鈴吹:それ以外の特徴と言えば……やっぱり丹藤君の繰り出す面白キャラクターだよな。
丹藤:あれは、「こんなスタイルの組み合わせで、あなたも好きなキャストを色々作れる」という例示としてはとても良かったと思います!
藤井:“バイオリン侍”とか、“伊賀リボルバー流拳銃ニンジャ軍団”とかいましたね(笑)。
鈴吹:なにが伊賀リボルバー流だよ(笑)。どんだけ忍者が好きなんだよ丹藤くんは。
丹藤:大好きですよ! いいじゃないですか忍者。
鈴吹:キャストにオーストラリアからきたニンジャがいたのにな。
藤井:サンダー・タンバーですね。
鈴吹:そうそう。サンダーがゲストに向かって「キャラ被りではないかー!!」と叫ぶシーンは、本当に面白かった。
丹藤:まさかキャラ被りするとは、私も思いませんでしたからね(笑)。
鈴吹:で、第二話には、とんでもロックバンドが出てくるし。
丹藤:“クラシカルカラーズ”ですね。
鈴吹:その丹藤くんが考えた「とんでもロックバンド」を弘司先生がイラスト化してくれているんだよね。凄い格好よく(笑)。
藤井:あれは格好いいですよね。
鈴吹:ほんとに。あと、クラシカルカラーズはシナリオに関係ないどうでもいい部分まで細かく設定が決まってるんだよな(笑)。
藤井:“メンバーの誰と誰が仲が悪い”とか、“音楽性の違いによりデビュー前に脱退したヤツがいる”とか、色々ありましたね(笑)。
丹藤:“伝説の五人目のメンバーがいる”とか設定を決めてました。あと歌詞も頑張って作りました(笑)。
鈴吹:でもお話は「トーキョーN◎VAで発生する大規模テロをキャストたちが解決する」というとてもオーソドックスな内容なんだよな。
藤井:ゲストはともかく、発生するイベントはシナリオを自作するときに参考になりますね。
丹藤:ありがとうございます(笑)。
鈴吹:あとわたしは、実はリサとアキラ(*)が出会うシーンが一番好きなんですよ。
藤井:そうなんですか?
鈴吹:そう。お互いのキャストが知り合いではない状態から、徐々に関係を持っていくのが『トーキョーN◎VA』のひとつの面白さなんで。
丹藤:わかります。お互いの目的を探り合って、確認して、やがて協力し合うというのが良いですよね。

●『ファントムレディ』
―――次は『ファントムレディ』についてお願いします。
ファントムレディ鈴吹:『ファントムレディ』は「『TNX』のサプリメントが出たので、ぜひトーキョーN◎VA以外の都市に出かけよう」というコンセプトのリプレイです。
丹藤:第一話がフェスラー公国(*)で、第二話がカムイST☆R(*)でしたね。
鈴吹:『N◎VA』って、ほとんどの場合、キャストはトーキョーN◎VA在住で作成すると思うんです。
藤井:そうですね。基本、N◎VAという都市の中でプレイする場合が多い気がします。
鈴吹:だけど、そのキャストたちがトーキョーN◎VAの外に行ったらどうなるか? 逆に、N◎VAの外から来たらどうなるか。そういう例示としてのリプレイになっています。
藤井:と言いつつ、第一話のリサはずっとトーキョーN◎VAにある自分の部屋にいましたけどね(笑)。
丹藤:そーなんですよねえ(笑)。
鈴吹:そうそう。部屋から一歩も出ないでも、他の場所の事件を解決できるというところが、実にN◎VAらしかったよね。
藤井:アキラがひとりで歩いているように見えるけど、実は三人で登場しているっていう場面も、N◎VAっぽいですよね。
丹藤:オブリビオン(*)とアキラが追う者と追われる者という感じで一対一で対峙するシーンですよね。
鈴吹:はたからみると一対一に見えるんだけど、アキラの左手の甲にレフティ(*)、ポケットロンにリサがいて、実際は一対三だったという(笑)。
藤井:あの場面は、本当に面白かったです。
丹藤:そういうN◎VAの外の例示に加えて、クロガネなどのマイナスナンバーのスタイルを使う例にもなっています。
鈴吹:ところで、話は変わるんだけど、『TNX』になって『カラミティボックス』と『ファントムレディ』と二冊リプレイが出版されたわけですが。
藤井:はい。
鈴吹:同じキャストが二冊にまたがって登場して、シリーズっぽく展開しているのは、これまであんまりなかったことなんですよ。
藤井:あ、そういえば。
丹藤:言われてみると珍しいですね。
『N◎VA』の場合二話やるとキャストが結構死んじゃうからなかなか続きものができない(爆笑)。
鈴吹:キャストが死なないまでも、キャストのお話として完結してしまうしね。
丹藤:あとは『N◎VA』の場合NPCになったりしますね。
鈴吹:そう。で、NPCになるとサプリメントのパーソナリティズに掲載されたりするわけなんですが……。
丹藤:そういえば『カラミティボックス』と『ファントムレディ』に登場しているPCはパーソナリティに収録されていないですよね。これまでは。
藤井:そういえば、そうですね。
鈴吹:でも、本誌で掲載される藤井さんの執筆したリプレイ「ハイスクール・ラプソディ」は、リサから依頼がくるというハンドアウトなんだよね。
藤井:そうです。私がリプレイを書くにあたって、自分のキャストなんで出しやすいというのもあって依頼人のゲストとして登場させました。

●「ハイスクール・ラプソディ」
―――それではこの後に掲載されているリプレイ、「ハイスクール・ラプソディ」についておうかがいしたいと思います。
鈴吹:まず、お面白い部分は舞台が学園であるということ。
藤井:実は私、以前から学園ものの『N◎VA』は面白いんじゃないかと思っていたんですよ。
鈴吹:逆にわたしにはそのイメージは無かった。殺伐とした舞台だし。なんで藤井さんは面白いと思ったの?
藤井:『トーキョーN◎VA』の特徴に、年齢の若いキャストでも十分に活躍できるところがあると思うんです。
丹藤:それは確かに。
藤井:なので、学校のような組織に所属して何かやるというのは楽しいんじゃないかなと思っていました。
鈴吹:実はわたしには、リプレイを収録する前は心配事がありました。
―――どんな心配ですか?
鈴吹:キャラクターの作り方。実は学園以外で使用できない造形のキャラクターばかりになるんじゃないかと心配していました。
丹藤:なるほど。
鈴吹:だけど実際にプレイしてみるとそうでもなかった(笑)。
藤井:皆さんが巧いキャストの作り方をしてくれたお陰だと思います。
丹藤:ああ、それもあるか。
鈴吹:お話は、「学定期テストや学園祭といった学園のイベントをこなしつつ、背後で起きる不穏な事件を学園のキャストたちが解決していく」という王道の展開ですね。
藤井:はい。
鈴吹:ゲームデザイナー的に言うと、
「ハイスクール・ラプソディ」の学内セキュリティが上昇していくというギミックは巧かったと思う。
藤井:ありがとうございます。
鈴吹:詳しく説明すると……シナリオの舞台となる学校は、セキュリティが高いので、アイテムの持ち込みに規制がかかることになります。
丹藤:「学校では銃を持って歩かない」とかそんな校則がある感じで。
鈴吹:そうそう。で、そういう雰囲気をシナリオギミックに活かされた結果、キャストが学園の生徒らしさを追求できるというのがよかった。
藤井:「日本刀を持って学校内を歩くのはNG。なので日本刀に偽装セットをつけて木刀にする」とかすることで急に学校ものっぽくなるのは面白かったです。
丹藤:ちなみに本誌掲載のシナリオ「Seven Wanders in College」は「ハイスクール・ラプソディ」とほぼ同時期の同じ学園を舞台として扱っております。
鈴吹:リプレイを楽しんだら、ぜひシナリオを遊んで欲しいですね。
藤井:あと制作の順番の都合で、リプレイでは使用できなかったんですが、本誌掲載の学園用のアウトフィットもお面白いデータが多いので、ぜひ使って欲しいです。

※※後編に続く───
▼註釈
(*)『トーキョーN◎VA リプレイ ふりむけば死』
『トーキョーN◎VA』のリプレイ集。“死の右腕”メルトダウンや音羽南海子が初登場したリプレイ。
(*)『ソードワールドRPG』
剣と魔法の世界フォーセリアを舞台にしたファンタジーTRPG。制作はグループSNE。株式会社KADOKAWA 富士見書房より発売されている。
(*)リサ
『TNX』のリプレイ『カラミティボックス』のPC、リサ・シュトラードニッツのこと。十七歳の凄腕のニューロ(ハッカー)。“デッドロック”の異名を持つ。
(*)アキラ
『TNX』のリプレイ『カラミティボックス』のPC、根津アキラのこと。N◎VAで探偵業を営んでいる。数本の刀を隠し持ち、それを粉砕して戦う。
(*)フェスラー公国
軌道の大富豪、フェスラー家が金に飽かせて土地を買い取り、N◎VAに隣接する形でできた独立国家。
(*)カムイST☆R
シベリアを中心とした旧ロシア、アラスカ、北海道を中心に集まった部族によって建国されたメガプレックス。街を歩けば、妖魔の類を目撃することができる。
(*)オブリビオン
『TNX』のリプレイ『ファントムレディ』のPC。アキラと同じ部隊に所属していた元軍人で一度死んだが、生ける屍として蘇った。
(*)レフティ
『TNX』のリプレイ『ファントムレディ』のPC。国際警察機構ケルビムの捜査官。意思を持ったサイバーウェア。

22年目のニューロエイジ
(GF別冊29座談会・前編)

『ゲーマーズ・フィールド別冊Vol.29 トーキョーN◎VA 22nd Anniversary』の発売記念と告知を兼ねて、その冒頭に掲載した座談会「22年目のニューロエイジ」の内容を公開することにしました。
 少々長いので、分割し3回に分けて掲載していきます。
 この座談会を読んで興味を持った方はぜひ『GF別冊』の方を読んでみてください。
 また、2015年4月発売予定の新サプリメント『トーキョーN◎VA THE AXLERATION サプリメント ビハインド・ザ・ダーク』に関する話題も載っています。
 そんな感じで盛りだくさんの座談会です。ぜひお読みくださいませ。

座談会TOP

■はじまり
―――それでは、『ゲーマーズ・フィールド(以後、GFと省略)別冊29』に掲載する『トーキョーN◎VA THE AXLERATION』(以後、『TNX』)特集の座談会の収録を始めます。よろしくお願いします。
一同:よろしくお願いしまーす!
―――それではまず、参加者の皆さんには自己紹介をお願いします。
鈴吹:ではわたしから。『トーキョーN◎VA』(以後、『N◎VA』)シリーズのメインデザイナーの鈴吹太郎です。
丹藤:『N◎VA』のシナリオや、『TNX』のリプレイを執筆させていただいている丹藤武敏です。
藤井:フリーライターの藤井忍です。このたび、本誌にて『TNX』のリプレイを執筆させていただくことになりました。
―――それでは、皆さんよろしくお願いします。

■『N◎VA』とは?
鈴吹太郎―――では、本誌で初めて『トーキョーN◎VA』に触れるという方もいると思いますので、まずはゲームの説明からお願いします。
鈴吹:わかりました。『トーキョーN◎VA』は、F.E.A.R.が出来たのとほぼ同時期の一九九三年一月にツクダホビーから発売されたTRPGです。
藤井:今年で最初に発売されてから二十二年目になるんですね。
鈴吹:はい。現行の最新版である『TNX』は、その5thエディションにあたります。
―――歴史の積み重ねを感じますね。
鈴吹:その間カバーイラストとタロットは、ずっとイラストレーターの弘司先生に描いていただいて、展開してこれました。
―――次はゲームの内容について説明をお願いします。
鈴吹:『トーキョーN◎VA』は、トーキョーN◎VAという近未来の都市を舞台に、色々な人々が事件に巻き込まれたり、冒険したりします。
―――その他のゲームの特徴はどんなものでしょう?
 TNX
鈴吹:タロットカードになぞらえた“スタイル”という他のゲームのクラスに当たるものを三個選びます。その組み合わせでキャラクターを表現するというところは特徴に挙げられると思います。
丹藤:ダイスの代わりにトランプを使用して判定するTRPGというのも特徴的な要素ですよね。
鈴吹:そうですね、特徴といっていい部分だと思います。で『N◎VA』の最初のキャッチコピーは、“サイバーアクションRPG”でした。
藤井:最初は“サイバーパンクRPG”じゃなかったんですよね。
丹藤:『トーキョーN◎VA The 2nd Edition』(以後、『TN2』)のキャッチコピーは、確か“アーバンアクションRPG”でしたよね。
藤井:『トーキョーN◎VA The Detonation』(以後、『TND』)の時にキャッチコピーが“サイバーパンクRPG”になるんでしたっけ?
鈴吹:そのとおりです。ようやく“サイバーパンクRPG”になりました。

■丹藤武敏のヒミツ

―――それでは今回のゲストについて話題を進めようと思います。まずは丹藤さんから。
丹藤武敏丹藤:よろしくお願いします。
―――丹藤さんについてはこれまであまり情報が露出していないので、基本的なところからお聞きしたいと思います。まず初めて遊んだTRPGを教えてください。
丹藤:初めて遊んだTRPGは、『ワースブレイド』(*)です。
藤井:何か『ワースブレイド』を選んだ理由とかあるんですか?
丹藤:私が中学生の頃に親戚のお兄さんがTRPGなるものを持ってきまして。それが『ワースブレイド』だったんですよ。
藤井:なるほど。
丹藤:で、「お前が、ワースメイカーをやれ!」と言われまして(笑)。
鈴吹:GMをやったのか。
丹藤:はい。やりました。ただその後、はTRPGをプレイする機会に恵まれませんでした。機会に恵まれたのは大学に入ってからです。
鈴吹:大学に入るために、東京に出てきたんだっけ?
丹藤:はい。サークルに入ってTRPGを遊ぶ機会が増えました。
藤井:そのサークルは、何人くらいの規模だったんですか?
丹藤:私がサークルに入ったころは、百人を超えてました。
藤井:百人ですか! すごいですね。
鈴吹:ちなみに、丹藤くんが人生で一番たくさん遊んだTRPGは何なの?
丹藤:大学生時代は『GURPS』(*)をかなり遊んでます。ただ現在だと『N◎VA』といい勝負ですかね。

●『N◎VA』との出会い

―――では、丹藤さんが『N◎VA』に触れた切っ掛けを教えてください。
藤井忍丹藤:大学生のとき友人に誘われて『TN2』をクルードルール(*)で遊んだのが最初です。
鈴吹:『TN2』は、テクニカルルールとクルードルールに別れていたからね。
丹藤:遊んでみて「《死の舞踏》という神業を使うと、敵は死ぬ」というルールにすごい衝撃を受けました(笑)。
―――確かに衝撃的なルールですね。
丹藤:でも、実はその後『N◎VA』を遊ぶ機会にはしばらく恵まれませんでした。
藤井:そうだったんですか。
丹藤:大学を卒業した後になって友人から『トーキョーN◎VA The Revolution』(以後、『TNR』)を教えて貰いまして、それからたくさん遊ぶようになりました。
藤井:丹藤さんが本格的に『N◎VA』を遊び始めたのは『TNR』以降なんですね。
鈴吹:その頃はどんな風にゲームを遊んでたの?
丹藤:主に当時出ていた『スーパー・シナリオ・サポート(*)』(以後、SSS)を遊んでいました。
鈴吹:『SSS』について、少し説明しておくと、隔月でシナリオを提供していたサプリメントのシリーズ名です。
藤井:『N◎VA』の他にも『ブレイド・オブ・アルカナ』など様々なゲームのサポートをしていたんですよね。
丹藤:そうですね。『SSS』は私の青春でした(笑)。ところが困ったことがあって。
藤井:困ったこと?
丹藤:遊びすぎてシナリオが足りなくなってしまったんです(笑)。
藤井:なんと!(笑)
鈴吹:『SSS』すら遊び尽くしてしま
ったんですね(笑)。
丹藤:はい。それが切っ掛けで自分でシナリオを書くようになりました。
鈴吹:その頃にわたしが丹藤君と出会うわけです。切っ掛けは彼が投稿してきてくれたシナリオがあって……。
丹藤:はい。『TNR』に掲載されているシナリオ「セルフサクリファイス」の続編を書いて投稿したところ、お声が掛かりました。
鈴吹:「もしかして戦力になるかも」と期待して、会社に来てもらって話をしていたら、そのとき「実は……」といって『ブレイド・オブ・アルカナ(*)』のシナリオが二本出てきた(笑)。nova_sss10
丹藤:そのシナリオが『ブレイド・オブ・アルカナ The 2nd Edition スーパー・シナリオ・サポート Vol.4 女神の誓い ~Empress Oath~』に採用され、デビューにいたりました。
藤井:とんとん拍子にデビューしたんですね。
鈴吹:あのときのシナリオは二本とも面白かったなあ。
丹藤:ありがとうございます。そこから『トーキョーN◎VA The Revolution REVISED』(以後、『TNRR』)の付属シナリオや『SSS』のシナリオを執筆しました。
鈴吹:その後シナリオを山のように書いて……百本は超えたんだよね。
丹藤:そうですね。確か百本目のシナリオを書いた時に皆が祝ってくれたんですよ(*)。流石に百本より先は、数えてません(笑)。
鈴吹:なお、「セルフサクリファイス」の続編「セルフサクリファイスⅡ」は、『トーキョーN◎VA The Revolution スーパー・シナリオ・サポート Vol.10 Mirror Shade ~錆びた鏡~』に採用されています。

●『SSS』について

鈴吹:『SSS』については思い出に残るシナリオもいっぱいあるよな。
丹藤:たくさんありますね。思い出してみると、「アイツも殺した」、「コイツも殺した」となるわけですが(一同爆笑)。
藤井:なるほど。NPC殺戮の歴史になるわけですね(笑)。
鈴吹:その当時、実際に『SSS』を遊んでくれていたプレイヤーさんたちから聞いた話になるんだけどね。
藤井:はい。
鈴吹:一番ゲームを遊んでいた頃に『SSS』をプレイしていたから『SSS』は青春なんだって。
藤井:さっき丹藤さんも言ってましたよね。私もその気持ちはよくわかります(笑)。
鈴吹:リアルタイムで、『SSS』をプレイしているとワールドの設定が進んで段々とゲストが歳を取っていくので、同時代性みたいなものを感じるのだそうだ。
丹藤:そうそう。よく分かります。
藤井:確かに『SSS』を通じて『トーキョーN◎VA』の世界は変わりましたよね。
丹藤:そういう意味では、「タタラ」の『SSS』は特に印象に残っています。
鈴吹:確かに、『SSS Vol.17 Virtual Girl ~二進法のマリア~』は思い出深いな。
藤井:確か……AIが人間になるという連続シナリオでしたっけ?
鈴吹:そうです。そのキャンペーンを踏まえて『TND』に版上げした時には、「AIのキャラクターをプレイヤーが作成できる」ようにしました。
丹藤:そうでしたね。
鈴吹:『TNRR』までは、プレイヤーが「自分はAIだ」というキャラクターを作っても演出でしかなかった。
丹藤:それが、『N◎VA』という世界で「AIにも人権がある」と認められるように変化したというのをキャンペーンシナリオで表したんですよね。
鈴吹:そのとおり。
丹藤:そのお話に登場する「AIの救世主」を生み出したのはそれぞれのシナリオをプレイしたキャストのタタラなんですよね。
鈴吹:そう。「世界を変えたのはシナリオを遊んだあなた方自身だ」、という仕掛けになってます。
―――なるほど。
鈴吹:ところが困ったことがひとつあって。
藤井:困ったこと?
鈴吹:『トーキョーN◎VA』の歴史を書く時に、世界を変えた人物の名前が書けない。それぞれの卓にいるキャスト自身だから(一同爆笑)。
藤井:それぞれの卓ごとに世界を変えた人の名前が違うからですね(笑)。
丹藤:ゼロ(*)を殺したのも名も知らぬキャストですしね。
藤井:そういえば丹藤さんの書いたリプレイ「火星人故郷へ還る」に登場したカーロスが持っていたコネクションが〈コネ:どこかのキャスト〉というカーロスと関係のある読者のキャストの誰かでしたね。
鈴吹:そうそう。シナリオ主体で世界が変わっていた結果そんなことだらけに(笑)。
丹藤:あと、数々のゲストを殺している、現在N◎VA最強の暗殺者は誰かというと、実はキャストということになるんですよね(笑)。

●丹藤リプレイ
―――丹藤さんが初めて書いたリプレイは何になりますか?
丹藤:初めてリプレイを書いたのは、GF別冊で掲載した『アリアンロッド剣豪伝 明星連也降魔剣』(*)になりますね。
鈴吹:あぁ! 『アリアンロッド剣豪伝 明星連也降魔剣』か。あれはセッションもリプレイも面白かった。
丹藤:昔は、ああいうシナリオばっかりやってました(笑)。
鈴吹:あの話で「変なNPCが登場する」という丹藤くんのリプレイの方向性が決まったよね(笑)。
丹藤:本当にそうですね。そして変なNPCは『トーキョーN◎VA』のリプレイにも引き継がれるわけです(笑)。
鈴吹:『トーキョーN◎VA』で初めてリプレイを書いたのは、『GF別冊Vol.24鈴吹太郎の希望』に掲載されたリプレイ「火星人故郷へ還る」だったんだよね。
藤井:あれは、『TND』の最後のリプレイですね。
鈴吹:あのリプレイあのリプレイは、カーロスを巡るとんちきな火星のやりとりが面白かった! ひさびさに、カーロスを堪能したよ(笑)。
丹藤:(突然カーロスになって)火星は存在するんだ!
鈴吹:そんなこたぁ、知ってるよっ!!(一同爆笑)
▼註釈
(*)『ワースブレイド』
1988年に株式会社ホビージャパンから発売。
巨大ロボットが存在するファンタジー世界で、冒険者となって遊ぶロボットファンタジーTRPG。
(*)『GURPS』
スティーブ・ジャクソン・ゲームズ社から発売されている汎用TRPG。一九九二年にグループSNEの翻訳で『ガープス・ベーシック』が発売された。
(*)クルードルール
データやルールを極力少なくして最小限のものだけでプレイするルール。
(*)『スーパー・シナリオ・サポート』
ゲーム・フィールドから発売されていたユーザーサポート。シナリオと追加データが掲載され、隔月のペース発売されていた。
(*)ブレイド・オブ・アルカナ
株式会社KADOKAWA エンターブレインから発売されているヒロイックファンタジーTRPG。現在、第三版となる『ブレイド・オブ・アルカナ The 3rd Edition』が発売されている。ゲームデザインは鈴吹太郎。
(*)百本目のシナリオ
友人たちが、百本目のシナリオ達成を記念して、帝国ホテルで記念パーティを開いてくれた。
(*)ゼロ
“暴力警官”ゼロのこと。『トーキョーN◎VA The Revolution REVISED SSS Vol.16 The Trouble with Bubbles ~世界を我が手に~』のシナリオで死亡する。
(*)『アリアンロッド剣豪伝 明星連也降魔剣』
『ゲーマーズ・フィールド別冊Vol.16 菊池たけしがこりずにまいりました!!』に掲載されたリプレイ。『アリアンロッド・リプレイ・アンサンブル』(株式会社KADOKAWA 富士見書房刊)に再録されている。

12月発売の新製品を年忘れコンにて……!?

F.E.A.R.新製品情報ー!
さてさて今月12月は、エンターブレインから2冊、ゲーム・フィールドから2冊の新刊が発売になります。

エンターブレインからは12月26日に、
『ナイトウィザード The 3rd Edition リプレイ 壊れた世界の聖約② 流れる星の下に』
『ナイトウィザード The 3rd Edition ファンブック ディア・フレンド』
の2冊が発売。
ゲーム・フィールドからは12月下旬に、
『ゲーマーズ・フィールド 19th Season Vol.2』
『エイジ・オブ・ギャラクシー』
の2冊が発売になります。
『ナイトウィザード』関連の書籍が2冊に、最新スペースオペラRPGの『エイジ・オブ・ギャラクシー』と、この年末年始で読みふけるのにピッタリの本が揃っています。
『ディア・フレンド』は、見本誌も社内に届いており、来週の発売を待つばかりです!
dearfriend

え? 「26日が待ちきれない」!? そんな貴方に朗報です!!!
12月23日開催の年忘れコンの物販にて『ディア・フレンド』先行発売が決定しました!
しかも、会場で販売される『ディア・フレンド』は、石田ヒロユキ先生のサイン&イラスト入りです!
イベントなどでもなかなかサインが手に入らない石田先生のサインを手に入れるチャンス!

さらにさらに『ゲーマーズ・フィールド 19th Season Vol.2』、『エイジ・オブ・ギャラクシー』の2冊も先行発売が決定しております。!
その他にもサプライズがある……かも!?? 是非とも会場でお確かめください。

年忘れコンの物販スペースは、セッションに参加していない方でもご利用いただけます。
いち早く新製品を手にしたい方、目にしたい方は会場へ遊びに来てくださいね。


※物販開場時間10:00~18:00となります。
※物販の開始時間は状況により遅れる場合がございます。予めご了承ください。
※商品には限りがあります。品切れの際はご容赦ください。
※先行発売のラインナップは予告無く変更される場合がございます。予めご了承ください。

GF19-1発売!

ゲーマーズ・フィールド 19th Season Vol.1が発売!
『フルメタル・パニック!』のかなめと宗介のイラストが目印です!
GF191

さて、ゲーマーズフィールドの期の切り替わりといえば……関連イラストレーターさんによる豪華な記念色紙!
gf191色紙
この、世界に一枚ずつしかない色紙は読者の皆様にプレゼントされます!
(応募方法は、GF本誌をご覧ください)

今号の特集は、サイバーパンク・アクションTRPG『トワイライトガンスモーク』初となるリプレイ「デイブレイクショット」!
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GM・執筆・イラストは、すがのたすく先生。プレイヤーに桜井光先生、小太刀右京先生、鋼屋ジン先生、重信康先生を迎えた豪華布陣。一挙20P掲載でお届けします。

そして『フルメタル・パニック! RPG』も今号よりサポート開始!
挿絵はもちろん四季童子先生!
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シナリオも1本掲載されていますよ!